洗浄組成物事件
判例紹介

洗浄組成物事件

執筆者
日野英一郎弁護士 
業務分野

発明の進歩性を否定した審決に対し、知財高裁が進歩性を認めて審決を取り消した事件である。本件発明は、生物分解性のある洗浄剤成分GLDAにグリコール酸ナトリウムを添加した水酸化ナトリウムによる高アルカリ洗浄剤組成物で、EDTAと同等の洗浄能力がある。EDTAは生物分解性がなく環境問題を起こす原因となるが、強い洗浄力を有している従来の洗浄剤組成物である。GLDAはそれ自体では水酸化ナトリウムの高アルカリ条件で中程度の洗浄力を有するが、グリコール酸ナトリウムを添加することによってEDTAと同程度の強い洗浄力を示すようになることが本件発明によって見出された作用効果である。グリコール酸ナトリウムはGLDAを生産するときに生じる副生成物で、GLDAの洗浄剤組成物を開示した公知文献においても、副生成物としてグリコール酸ナトリウムが含まれていた。ただし、当該公知文献では、グリコール酸ナトリウムを副生成物として含むGLDAは、水酸化ナトリウムの高アルカリ条件の洗浄剤としては開示されていないので、本件発明の作用効果は示唆されていない。このような事実関係の下で、審決は、グリコール酸ナトリウムを副生成物として含む公知文献の洗浄剤組成物を水酸化ナトリウムの高アルカリ条件で使用することは当業者にとって容易と判断した。本件は、知財高裁がこのような審決の判断を誤りと認めた事件である。

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