携帯電話番号識別子事件
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携帯電話番号識別子事件

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東京地裁 平成20年5月30日判決

音楽をダウンロードして外部メモリに記録させる場合に、記録した携帯電話機の電話番号と同一の電話番号の携帯電話機でのみ読み出しができるようにする目的で、音楽データとともに「番号識別子」をメモリに記録するという発明における「番号識別子」というクレーム文言の解釈が争われた事案。原告は、同一の電話番号の携帯電話機でのみ読み出しできるという目的が達成される以上、「番号識別子」であると主張した。一方、被告は、「識別子」にはコンピュータの分野の当業者に理解される意味があり、その意味に従った「識別子」のデータのみが「番号識別子」に該当すると主張した。東京地裁は基本的に被告のクレーム解釈を採用して非侵害の判断をした。

知財高裁 平成22年10月25日判決

上記東京地裁判決に対する控訴審の判決である。この事件では、侵害論、無効論についての裁判所の心証が開示されないまま損害論に入ったが、判決では非侵害を理由として控訴棄却された。
この事案においては、携帯電話でダウンロードされた音楽等のデータをSDカードのような外部記憶媒体に記録し、携帯電話で読み出し、再生する場合に、著作権保護の目的で、記録した携帯電話機と同一の電話番号を有する携帯電話機にのみデータの読み出しを許可するという効果の点で、特許発明と被控訴人(KDDI)の製品は同じである。しかし、その目的、効果を実現する手段として、特許のクレームでは記録時の携帯電話機の電話番号の識別子を音楽等のデータと関連付けて外部記憶媒体に記録し、読み出し時には、データを読み出そうとする携帯電話機の電話番号が電話番号の識別子に該当するか判定をする。これに対し、KDDIの携帯電話機では、音楽等のデータを暗号化して外部記憶媒体に記録するが、その際の暗号鍵を携帯電話の電話番号に基づいて生成し、当該暗号鍵を用いて暗号化した固定値(「暗号化された固定値」)を暗号化された音楽等のデータとともに外部記憶媒体に記録する。データを読み出そうとする携帯電話機は、その電話機の電話番号に基づいて復号鍵を生成し、外部記憶媒体に記録されている「暗号化された固定値」を復号する。復号されたデータが所定の固定値と一致すれば、暗号化された音楽等のデータを外部記憶媒体から読み出し、復号、再生することが許される。つまり、KDDIの携帯電話機では、外部記憶媒体に電話番号の識別子を記録するのではなく、「暗号化された固定値」を記録し、読み出しをしようとする携帯電話機が所定の復号鍵を有しているかどうかで、読み出しの許否を判断している。「暗号化された固定値」は電話番号を識別するデータではなく、所定の復号鍵であることを判別するためのデータである。
第1審の東京地裁判決が、「暗号化された固定値」は電話番号の識別子に該当しないと判断したのに対し、知財高裁は本件特許の電話番号の識別子が「暗号化された固定値」を含むとしながらも、「暗号化された固定値」が電話番号に該当するか否かの判定をしていないとして、被控訴人製品の非侵害を認定した。

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