濫用的会社分割
法律用語集

濫用的会社分割

読み方
らんようてきかいしゃぶんかつ
業務分野

1 濫用的会社分割とは

経済的な窮境状態にある会社が、会社分割によって分割会社の優良資産を新設会社に承継した上で、分割会社において特定の債権を非承継債務と設定することにより、一部の債権者についてのみ債権回収の可能性を著しく低減させること。

会社につき無資力や法的倒産手続申立原因が客観的に存在し、会社の組織再編が会社の債権者に対して重大な影響を及ぼすことが明白な状況であるにもかかわらず、債務者である会社が独自の裁量により債権者を不平等に取り扱う結果が生じることから問題視された。

2 問題の所在

新設分割に対して異議を述べることができるのは、分割会社の債権者のうち会社分割後に分割会社に対し債務の履行を請求できなくなる者に限られ、分割会社に残される債務に係る債権者(残存債権者)は、いわゆる人的分割の場合などの例外を除き、債権者異議手続の対象とならず(会社法810条1項2号)、会社分割無効の訴えの原告適格も有しない(会社法828条2項10号参照。東京高判平成23年1月26日金判1363号30頁)。新設分割では、承継された権利義務の対価としてそれと等価の設立会社株式が分割会社に交付されるため、分割会社の資産価値は計算上は変わらず、残存債権者には影響がないとされているからである。

しかし、設立会社の株式は、通常、非上場の譲渡制限付株式(会社法2条17号)であり、その換価可能性は極めて低く実質的な価値はほとんどない。加えて、設立会社の株式が廉価で関係者に売却されたり、設立会社において第三者割当の増資がされてその価値が希釈されてしまうことが多い。したがって、濫用的会社分割が行われた場合、抜け殻となった分割会社にしか請求できない残存債権者(金融債権者や公租公課庁)が自己の債権の満足を図ることは極めて困難になる。

そこで、残存債権者が詐害行為取消権を行使し、あるいは破産手続に入った分割会社の破産管財人が否認権を行使することを通じて、設立会社へ移転した財産の返還又はそれに代わる価額賠償を求められないかというのが、問題の所在である。

3 判例

そもそも会社分割が詐害行為取消しや否認権行使の対象となるのかについては従来争いがあったが、最判平成24年10月12日民集66巻10号3311頁は、残存債権者を害する会社分割については詐害行使取消しの対象になることを認めた。上記判例は、新設分割に対する詐害行為取消しが問題となった事案であるが、吸収分割や否認についても同様の考え方が妥当すると考えられる。

上記判例は、詐害行為取消しによって取り消される対象は新設分割であるとしつつ、新設分割自体を取り消した効果を限定して、債権保全に必要な限度で設立会社への権利の承継の効力が否定される、とした。詐害行為取消しによって会社分割の効力が全体として否定されるのではなく、単に、残存債権者が会社分割により移転した財産の返還又は当該財産の価額賠償を請求できるにとどまるのであれば、会社分割の無効は会社法828条1項の訴えによってのみ主張できるものとされていること(同項9号・10号)との抵触は生じないと考えられる。

4 平成26年会社法改正

残存債権者の保護は、詐害行為取消しのような一般法理に委ねるだけでなく会社法にも規定を設けることが適切であるとの指摘を受け、平成26年改正で、分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は、承継会社・設立会社に対し、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求することができる旨の規定が設けられた(会社法759条4項ないし7項、761条4項ないし7項、764条4項ないし7項、766条4項ないし7項)。

この改正は、残存債権者が改正前に有していた権利を否定する趣旨でなされたものではないため、改正法施行後も、残存債権者が詐害行為取消権を行使し、あるいは分割会社の破産管財人が会社分割について否認権を行使することは可能であると考えられる。

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(弁護士 森田豪丈 /2022年4月5日更新)

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